大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和41年(手ワ)3882号 判決 1967年3月28日

株式会社安田万吉商店代表取締役安田万吉こと 原告 安万鳳

右訴訟代理人弁護士 岡田実五郎

同 鈴木孝雄

被告 上武開発株式会社

右代表者代表取締役 貫井清英

被告 貫井清英

右被告両名訴訟代理人弁護士 小島竹一

被告 三建砿業株式会社

右代表者代表取締役 三上清治

主文

一、被告上武開発株式会社は原告に対し金六、四五三、〇〇〇円および内金三五〇、〇〇〇円に対する昭和四一年五月一日から、内金六〇〇、〇〇〇円に対する同年同月三一日から、内金二、五〇〇、〇〇〇円に対する同年六月二日から、内金三、〇〇三、〇〇〇円に対する同年一〇月二〇日から、各完済まで年六分の割合による金員の支払をせよ。

二、被告貫井清英は原告に対し金三、九五三、〇〇〇円および内金三五〇、〇〇〇円に対する昭和四一年五月一日から、内金六〇〇、〇〇〇円に対する同年同月三一日から、内金三、〇〇三、〇〇〇円に対する同年一〇月二〇日から、各完済まで年六分の割合による金員の支払をせよ。

三、被告三建砿業株式会社は原告に対し金三、四五〇、〇〇〇円および内金三五〇、〇〇〇円に対する昭和四一年五月一日から、内金六〇〇、〇〇〇円に対する同年同月三一日から、内金二、五〇〇、〇〇〇円に対する同年六月二日から、各完済まで年六分の割合による金員の支払をせよ。

四、訴訟費用は被告らの負担とする。

五、この判決は仮に執行することができる。

事実

一、原告訴訟代理人は主文第一ないし第四項と同旨(原告提出の昭和四一年一二月一九日付準備書面中第一の一、の(一)および(三)に各「二五〇、〇〇〇円とあるのは「二、五〇〇、〇〇〇円」の誤記であり、右(三)のうちに「三建工業株式会社」とあるのは「三建砿業株式会社」の誤記であると認める。)の判決および仮執行の宣言を求め、請求の原因として次のとおり陳述した。

原告は、被告上武開発株式会社、同貫井清英が共同で振出した別紙手形目録1、ないし4、記載の約束手形四通、被告上武開発株式会社が振出した右目録5、記載の約束手形一通の所持人である。右五通の手形は、いずれもその振出日の翌日に、被告三建砿業株式会社が拒絶証書作成義務免除の上原告に裏書譲渡したものである。原告は右各手形のうち、3、ないし5、の各手形を各呈示期間内に支払場所に支払のため呈示したが支払を得られなかった。よって原告は被告らに対し左記金員の支払を求める。

(1)  被告上武開発株式会社に対しては、右1、ないし5、の各手形金の合計金六、四五三、〇〇〇円、その内1、2、の各手形金合計額に対する本件訴状送達の後である昭和四一年一〇月二〇日から完済まで商法所定の年六分の割合による遅延損害金、および3、ないし5、の各手形金に対する各満期の後である主文第一項掲記の各日から各完済まで手形法所定の年六分の割合による利息

(2)  被告貫井清英に対しては、右1、ないし4、の各手形金の合計金三、九五三、〇〇〇円、そのうち1、2、の各手形金合計額に対する前記と同様の遅延損害金、および3、4、の各手形金に対する前記と同様の利息

(3)  被告三建砿業株式会社に対しては、右3、ないし5、の各手形の合計金三、四五〇、〇〇〇円、および右各手形金に対する前記(1)と同様の利息

二、被告上武開発株式会社同貫井清英訴訟代理人は「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、答弁として次のとおり陳述した。

(一)  原告訴訟代理人の提出した本件訴状には、原告として「株式会社安田万吉商店」と表示され、その傍に右代表者代表取締役として「安田万吉こと安万鳳」と表示されていた。その後右代理人は株式会社安田万吉商店という名の会社は存在せず、安万鳳を代表者とする株式会社安田商店という会社が存在することを知り、昭和四一年一二月一九日の本件第三回口頭弁論期日において原告の表示を「株式会社安田商店」とあらため「株式会社安田万吉商店」は右会社の通称である旨を陳述した。ところが、その後昭和四二年一月一二日の第四回口頭弁論期日に被告ら代理人から株式会社安田商店は昭和四一年二月一日に設立されたものであって本件各手形に裏書がなされた当時は未だ存在しなかった事実を指摘されるや、再度原告の表示を変更し、原告は安万鳳個人であって、「株式会社安田万吉商店」はその通称である旨を主張するにいたった。しかし、右の経緯から明らかなように、原告訴訟代理人は当初から法人を原告と表示して訴を提起したものと見るべきであって、その法人の表示方法を最初の訂正のようにあらためることは格別であるけれども、再度これを訂正して原告を安万鳳個人であるとすることは、明らかに当事者を当初とは別個の人格者に変更することであるから、表示の訂正に過ぎないとして許容されるべきものではない。

(二)  原告安万鳳の請求原因として主張する事実のうち、被告上武開発株式会社および被告貫井清英がそれぞれ原告主張の各手形に共同でもしくは単独で振出人として記名捺印した事実、右各手形の呈示に関する事実は認めるが、原告安万鳳が右各手形を所持している事実はこれを否認する。前述したところから明らかなように、本件訴訟の原告は株式会社安田商店と見るべきであって、右各手形の所持人は右会社である。本件原告訴訟代理人の主張は当初から右のとおりであって被告らは右主張事実を認めるものであり、右主張を変更して手形の所持人が安万鳳であると主張することは許されない。そして本件各手形に相被告三建砿業株式会社が裏書をした当時は株式会社安田商店は前述のとおり未だ成立していなかったものであって、その被裏書人として表示された株式会社安田万吉商店を右会社の通称と見るべき余地はないから、株式会社安田商店は裏書の連続のある手形の所持人ではなく、本件手形上の権利者としての推定を受けない。

仮に本件訴訟の原告を安万鳳とすることが許され、同人が本件各手形の所持人であるとしても、被告両名から相被告三建砿業株式会社が本件各手形の振出交付を受けてこれを原告安万鳳に裏書譲渡した事実はない。

本件各手形は、被告両名が相被告三建砿業株式会社に対し単に保管を託して預けておいたものに過ぎないから右会社は本件各手形上の権利を取得していない。そして、原告安万鳳が仮に右会社から本件各手形の裏書譲渡を受けたものとしても、原告は右譲受に際し右会社が無権利者であることを知っていたかもしくは知らなかったことにつき重大な過失があるから、本件各手形上の権利を取得し得ない。さらに仮に右会社が本件各手形上の権利者であったとしても、右各手形は被告らが右会社に対する砕石納入の保証の意味で他に譲渡しない特約の下に交付していたものであって、原告安万鳳は右の特約の存在を知りながら本件各手形を譲受けたものであるから、いずれにしても被告らは原告安万鳳に対し本件各手形金支払の義務を負わない。

三、原告訴訟代理人は右被告両名の主張に対し次のとおり陳述した。

被告らの指摘するような経過により本件原告の表示が再度変更された事実、株式会社安田商店が昭和四一年二月一日に設立された会社である事実はこれを認める。しかし、原告安万鳳は古くから肩書住所において株式会社安田万吉商店という商号を用い、その代表取締役安田万吉という肩書を使用しているものであり、本件訴状には右の通称によって原告を表示したに過ぎず、当初から安万鳳個人を原告として表示しているものであって、二度目の訂正によりその表示方法を正確なものとしただけのことである。株式会社安田商店はその所在地も原告安万鳳の肩書住所地とは異なるものであって、最初にした原告の表示の訂正は誤りである。

相被告三建砿業株式会社から原告安万鳳への手形上の権利の移転がない旨、原告安万鳳が本件各手形の善意取得をしていない旨および被告らの相被告三建砿業株式会社に対する人的抗弁の対抗を受ける旨の各抗弁事実はいずれもこれを否認する。

四、≪証拠関係省略≫

五、被告三建砿業株式会社代表者は適式の呼出を受けながら本件口頭弁論期日に出頭せず、答弁書その他の準備書面も提出しない。

理由

一、被告三建砿業株式会社は原告の主張事実全部を明らかに争わないものとしてこれを自白したものとみなすべく、この事実に基づく同被告に対する原告の本訴請求は正当として認容すべきである。

二、次にその余の被告両名に対する請求に関しその原告を何人と見るかの点について検討する。

昭和四一年一〇月一三日に提出された本件訴状には、「原告」として「株式会社安田万吉商店」との表示があり、その肩書に「東京都調布市金子町一一五四番地」という住所の記載があり、「原告」の表示に続いて「右代表者代表取締役」として「安田万吉こと安万鳳」という記載があること、原告訴訟代理人は本件第二回口頭弁論期日に右訴状に基づく陳述をした後、昭和四一年一二月一九日の第三回口頭弁論期日に同日付の準備書面に基づいて原告の表示を訂正する旨を陳述したが、右準備書面にはあたらしい「原告」として「株式会社安田万吉商店こと株式会社安田商店」との表示があり、その肩書に「東京都調布市大町六二三番地」という住所の記載があり、「原告」の表示に続いて「右代表者代表取締役」として「安田万吉こと安万鳳」という記載があること、その後昭和四二年三月二日の第六回口頭弁論期日にいたり、原告訴訟代理人は再度原告の表示を本判決頭書のとおり訂正する旨を陳述したこと、本件訴状添付の昭和四一年一〇月八日付訴訟委任状には、委任者の氏名として「株式会社安田万吉商店代表取締役安田万吉」というペン書の記載がありその名下に(安田)という印影が押捺されていることは、何れも本件訴訟上明らかな事実である。また、株式会社安田万吉商店という会社は東京法務局調布出張所管内において登記されていない事実、株式会社安田商店は昭和四一年二月一日に東京都調布市大町六二三番地を本店所在地とし、安万鳳ほか二名を取締役、安万鳳を代表取締役として設立登記がなされている事実、および右の登記簿には安万鳳の住所を東京都調布市金子町一一五四番地と記載されている事実は≪証拠省略≫によって認められる事実である。さらに≪証拠省略≫によれば、本件五通の手形の第一裏書らんにはその被裏書人として(株)安田万吉商店という記載があり、第二裏書らんには裏書人として(株)安田万吉商店または株式会社安田万吉商店という記載があり、これに並んで代表取締役安田万吉という記載があって株式会社平和相互銀行に対する取立委任裏書が記載されていることが認められる。

以上のすべての事実に本件弁論の全趣旨を総合して考えるときは、次の理由により、本件訴訟の原告は、「株式会社安田万吉商店代表取締役安田万吉」を通称として使用する安万鳳個人であると解するのが相当である。

(1)  本件訴訟は、相被告三建砿業株式会社から本件各手形の裏書譲渡を受けその所持人となった者が、裏書人である右被告、および振出人であるその余の被告両名に対し、右各手形金等の支払を求めるものであること、右所持人は本件各手形を昭和四〇年一〇月二七日から同年一二月二五日までの間に取得したと主張していることは本件訴状の記載自体から明らかである。そしてこのことと、前示したように株式会社安田商店は未だ右の日時には成立していなかったことおよび株式会社安田万吉商店なる会社は存在しないことならびに本件各手形の第一裏書らんには前示のような記載があることを併せ考えれば、本件各手形の所持人と主張する者は株式会社安田万吉商店という名称を名乗る個人であると解せざるを得ない。

(2)  本件各手形の第二裏書らんには前示のような記載があること、右裏書はいずれも取立委任裏書である点から見て各手形の満期直前頃なされたものと推認され、したがって右の時期は株式会社安田商店成立後であると考えられるのに、右会社の名は本件各手形面上にあらわれていないこと、および本件訴状に添付された原告訴訟代理人に対する委任状(その作成の時期も株式会社安田商店の成立後である。)には委任者として前示のような記載があることから考えると、本件各手形の所持人であると主張して本件訴訟を起した者は、株式会社安田万吉商店の代表取締役を名乗る安田万吉個人であると解すべきである。そして安田万吉という名は安万鳳の通称であることは本件弁論の全趣旨から窺い得るところであるから、結局本件訴訟の提起者である原告は株式会社安田万吉商店代表取締役安田万吉という通称を名乗る安万鳳個人であると認めるべきである。

(3)  もっとも本件訴状に記載された原告の表示自体から見れば、右訴状には株式会社安田万吉商店という法人が原告として表示されているものと見ざるを得ないことは明らかである。しかし、右の法人が存在しないこと前認定のとおりであり、また前示のとおり原告の肩書に記載された住所は安万鳳個人の住所であって、株式会社安田商店の本店所在地とは異なること等を併せ考えれば、本件訴状における右の表示の仕方は、本来は本判決冒頭表示のとおり(原告の最終的主張のとおり)表示すべきところを、原告訴訟代理人の調査の粗漏のため誤まり記載されたものと解するのが相当である。また、原告訴訟代理人がその後原告の表示を株式会社安田商店とあらためたのも、最初の過誤について徹底した調査をしなかったために落入った再度の過誤であるといわざるを得ない。

三、以上のとおり、本件訴訟の原告は安万鳳個人であると認めるべきであるから、次に前示被告両名に対する原告の請求について検討する。

被告上武開発株式会社(以下被告会社という。)および被告貫井清英が別紙手形目録1、ないし4、記載の約束手形四通に共同振出人として記名捺印した事実、被告会社が右目録5、記載の約束手形一通に単独で振出人として記名捺印した事実および右被告両名が右各手形をその受取人である相被告三建砿業株式会社に任意交付した事実はいずれも当事者間に争いがない。そして≪証拠省略≫によれば、原告が現に所持し、本件各手形であると主張する五通の手形の第一裏書らんには受取人である三建砿業株式会社から株式会社安田万吉商店への裏書の記載がある事実が認められ、株式会社安田万吉商店は原告の通称であることは前示のとおりである。したがって、被告会社および被告貫井の両名は共同もしくは単独で本件各手形を振出したものであり、原告は右各手形の裏書の連続のある所持人として本件各手形上の権利を有するものと推定されねばならない。

被告らは、相被告三建砿業株式会社から原告への実質的権利移転のないこと、右会社が手形上の権利を取得せず原告は善意取得の要件も備えないこと、および被告らの右会社に対する人的抗弁事由を原告に対しても主張できることを抗弁として主張するけれども、右各抗弁事実は被告ら提出の≪証拠省略≫によっては未だこれを認めることができない。

最後に本件各手形の呈示に関する原告の主張事実は当事者間に争いがなく、昭和四一年一〇月二〇日が被告両名に対する本件訴状送達の後であることは本件記録上明らかな事実である。

以上によれば、被告両名に対する原告の本訴各請求もまた正当として認容しなければならない。

四、よって、民事訴訟法第八九条、第九三条、第一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 秦不二雄)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例